【2019年6月21日】Old Vicで「プレゼント・ラフター」を観劇する
(2020-10-15 投稿)
2020年10月13日にNT Liveでアンドリュー・スコット主演の舞台「プレゼント・ラフター」の映画館上映を鑑賞して、Old Vicで同公演を見た当日のことを思い出したので、留学写真日記の順番からは飛びますが、作品と当日を含めた感想、楽屋口の出待ち(以下SD)の思い出を振り返ろうと思います。
"Present Laughter"は、ノエル・カワード作のコメディで、カワード自身を写したと言われる、仲間や信奉者に囲まれた中年のスター俳優ギャリー(演:アンドリュー・スコット)の悪あがきを面白おかしく描いています。
National Theatre Live: Present Laughter | Official Trailer
ギャリーのフラットには彼の世話を焼いている、有能な秘書のモニカ、家政婦のエリクソンさん、従者のフレッドがいて、妻のリズとは何年か前から別居中。
ギャリーと妻のリズ、秘書のモニカは長年の友人であり、ギャリーのマネージャーモリス、プロデューサーのヘレンとも堅い絆で結ばれています。
ところがリズがヘレンの夫のジョーとモリスが浮気していることに気づき、友人同士の関係にヒビが入ってはいけないと、ギャリーに探りを入れるよう頼みます。
National Theatre Live: Present Laughter with Andrew Scott and Abdul Salis
(まずはモリスに探りを入れるギャリー)
ところが数日後の夜、突然訪れたジョーに誘惑されたギャリーは、疑惑を追求するどころかジョーと関係を持ってしまうのでした…。
当時、劇場で観た時は、次の日にテストを控えていたためにテンパっていて、思ったよりセリフの聞き取りが出来ず、周りが爆笑に注ぐ爆笑の中、ますますテンパってしまった記憶があるのですが、NT Liveを見て復習した今思えば、英語の聞き取りの問題ではなく、登場人物が誰なのか把握するのに時間がかかっていたせいじゃないか?という気がしてきました。
というのも、この公演では登場人物の性別が一部逆転していて、本来プロデューサーのヘレンはヘンリー、ヘレンの夫のジョーはジョアンナという役名なのです。
つまり、ギャリーもモリスもジョーもみんなバイセクシャルという設定に変わっています。
作者のノエル・カワードは(決して公表はしなかったそうですが)同性愛者で、Old Vicの芸術監督で演出を手がけるマシュー・ウォーカスは、アンドリュー(彼もまた同性愛者)との話し合いの中で出てきたこの設定変更が作品に愛情を抱き目的を導き出すための手がかりの一つだったと語っています。カワードも認めてくれたであろう、とも。
ただ、全員が異性愛者であれば、誰と誰が夫婦で誰と浮気して〜という関係性もシンプルですが、3人ともバイセクシャルとなると、名前と役割がはっきり一致していないうちに浮気が発覚して、関係性まで頭の中でゴチャゴチャになってしまうんですよね。相手は男かもしれないし女かもしれないし。そこが初見の時に混乱した原因かと思いました。
マシュー・ウォーカスが演出に当たって取り上げたポイントのもう一つは、ノエル・カワードが「元祖ポップ・スター」と言われていた点。
この芝居の中では、ギャリーと一夜を共にした若い女性ダフネと若手脚本家?のローランドが彼の熱狂的ファンとして登場するのですが、例えばローランドはギャリーを訪れ、作品について辛辣に批評されたにも関わらず、一層ギャリーに夢中になってつきまとうようになります。
National Theatre Live: Present Laughter | Andrew Scott and Luke Thallon
(第一幕で名残惜しくギャリーのフラットをあとにするローランドw)
Old Vicで観劇した時には、このローランドの奇妙な言動が可笑しくって強烈に印象に残っていました。自分は全く冷静だと言いつつ、何度も電話をかけてきたり勝手に押しかけてきたり、度を超えた行動でギャリーを困惑させます。
ギャリーのような自己愛の強いセレブリティは、煌びやかな表舞台と私生活のギャップの中で庶民とはかけ離れた生活を送る悲喜劇的人生をフォーカスされたりしますが、ローランドやダフネのような熱狂的なファンの情熱やその滑稽さも常に彼らと共にあることをここに描いているんですよね。
ところで、子役からショービスのキャリアをスタートさせたカワードは、「ピーターパン」では迷子役を演じたことがあるそうで、批評家のケネス・タイナンはカワードについて「40年前(1913年)に彼は『ピーターパン』の迷子のSlightlyだったが、それ以来、すっかり『ピーターパン』に出演し続けているようだ」と語っていたそうです。
つまり、今でも迷子のままだという意味。
マシュー・ウォーカスも"Sweet Sorrow"(甘い悲しみ)というこの舞台の矛盾した旧題から、漠然とピーターパンを思い浮かべていたそうです。
舞台の冒頭で、ギャリーのフラットに泊まったダフネがティンカー・ベルのような妖精の扮装をしていて、一方ギャリーの方は海賊のアイパッチを付けてノッソリと起きてきます。他の公演ではこの衣装は出てこない独自の演出です。カワードの分身であるギャリーが大人にならない「迷子」であることを表すヒントになっています。
ただ、ギャリーの場合は、「大人になりたくない」のではなく、「周りが大人にさせてくれない」と感じていそうな気がします。
皆から寄せられる期待と信頼に応えてセレブとして大げさに演じ続けないと、彼のアイデンティティが保てないのかもしれません。
National Theatre Live: Present Laughter | Andrew Scott as Garry Essendine
(ダフネと秘書のモニカの会話で起きてきた不機嫌なギャリー)
アンドリュー・スコットはこの公演の当時、神父役で出演していたドラマ「フリーバッグ」のヒットで「SHERLOCKのモリアーティ」から一転「フリーバッグのセクシー神父」としてさらに人気を獲得していた真っ只中でした。
どの役を演じても強烈な存在感を残すアンドリューですが、今回も単に大げさで面白おかしい演技で気を引くのではなく、些細な身振りや視線の投げ方で苛立ちと寂しさを表し、爆発的笑いを誘う見事な演技を披露しています。
つい、私生活でも周りの人間に対して演技するギャリーを見ていて、SHERLOCKのモリアーティが演じるIT課のジムやリチャード・ブルックを思い出していました。
モリアーティが観客にバレずに完全に第三者になりきっていた場面と比較してみると、「俺は相手の機嫌を損ねないように演技しているんだ」という苛立ちを合間合間に見せるギャリーの演技、そのさじ加減がとても絶妙。
ガーディアン紙では「カリスマ的な」アンドリューの演じるギャリーを「全ての惑星が回る輝かしい太陽であり、神聖な孤独の人」と表現しています。
また、劇場で観劇した時には前述の通り、ローランドの怖さ(笑)が強烈に頭に焼き付いてしまっていましたが、NT Liveで鑑賞した際には妻のリズ(インディラ・ヴァルマ)と秘書のモニカ(ソフィー・トンプソン)の、ギャリーに対する愛情が印象に残りました。彼女たちはギャリーというピーターパンに呆れながらも魅了されずにはいられないウェンディなのかもしれません。2人がギャリーに「もう大人なんだから」と諭すたびに自分に言われている気がしてちょっと凹みましたけどね(苦笑)
ソフィー・トンプソンは以前ナショナル・シアターの「負けるが勝ち」"She Stoops to Conquer"でハードキャッスル夫人を演じていた時もとても楽しい演技で記憶に残っていました。
劇場を出てSD(ステージドア) に向かうとすでに長い列が出来ていて、柵に沿って最後尾に並びました。何気にアンドリューの舞台をみるのもSDで待つのも初めてだった!
SDは一列に並んで、写真かサインのどちらか選んで準備をし、順番が終わったらすぐにはけるように指示があり、私はサインをもらってきました。
— ミウモ 𝕄𝕖𝕨𝕞𝕠 (@notfspurejam) 2019年6月21日
「Fleabag大好きですー!」
「え?ああFleabagね!ありがとう!」って感じで慌ただしく頂いた。すっかり大スターだわ、セクシー神父!
待つのは30分、でも会えるのはほんの一瞬!それでも一生ものの思い出です。
それに待っている間に前に並んでいる女の子と「どこから出てくるのかなー?」なんて話しているうちに仲良くなれました。
SDで一緒に待ってた中国人の子と仲良くなって途中まで一緒に帰ってきた。
— ミウモ 𝕄𝕖𝕨𝕞𝕠 (@notfspurejam) 2019年6月21日
彼女はアンドリューのハムレットもSea Wallも見たことがあるらしく、でもファンではないらしい。今回は欧州に住む友達のためにサインをもらいに来たんだって。
この子は大学で経済学(だったっけな?)の勉強をしている大の演劇ファンで、最近話題になってた芝居やミュージカルは全て見てるんじゃないかってくらいオフ・ウエストエンドの小さな小屋の芝居まで見てました。
関ジャニ∞のファンでもあって、日本にも何度か来たことがあるらしい。
彼女はミュージカルファンで明日のWELiveの話になって盛り上がった。オススメの芝居も教えてもらって、短時間に凄い情報量を共有させてもらったわ。嬉しい😊 https://t.co/XJXZN7dkIE
— ミウモ 𝕄𝕖𝕨𝕞𝕠 (@notfspurejam) 2019年6月21日
WestEnd Liveはトラファルガー広場で行われるウエストエンドのミュージカルが勢ぞろいする無料のライヴイベントのこと。彼女は「オペラ座の怪人」が特に好きなので、ライヴは見ずにSDで贔屓の役者を待つつもりだと話していた。
彼女は同じくピカデリー・ラインの駅で降りるので、電車の中でも見た芝居の感想を話したり、オススメの芝居を教えてもらったりしました。
(その中で、三浦春馬が出演した「キンキー・ブーツ」日本版の話も出て、一緒に動画を見たことを、彼の訃報で思い出したり…。)
面白い芝居の後に知り合ったばかりの演劇ファンとたっぷり芝居の話が出来るなんて。こんな恵まれた日はそうそうありません。心底幸せに浸れた夜でした。
好きなことなら英語でも落ち着いて会話出来るのになぁ。
— ミウモ 𝕄𝕖𝕨𝕞𝕠 (@notfspurejam) 2019年6月21日
Present Laughter | Behind The Scenes!
※ここからは劇場にたどり着くまでの一日※
[Friday]
12:15
授業が終わってからバスでベイカー・ストリートへ。昼時で道が混んでてバスがなかなか進まない。
13:18
ホームズ博物館のお土産コーナーを冷やかした後、ジュビリー・ラインでウォータールー駅に向かう。
13:30
サウスバンク・センター裏にあるフードマーケットへ。
平日でもかなりの賑わいで、どのストールも列が出来てる。
悩んだ末にカレー?のストールに並んでみるも、ちょうど作り置き分がなくなったところで数分程度待たされることに。しかも出来上がり後に順番飛ばされそうになって悲しかった… でもここで「並んでたんですけど!」と言えたのは成長の証かもしれない。
13:45
座る場所がないので、テムズ川方面に移動してベンチを探す。
13:48
サウスバンク・センター屋外のベンチでやっとランチにありつく。
14:30
夕方に語学交換の友人とロイヤル・フェスティバル・ホールで会う約束をしていたので、それまでクイーン・エリザベス・ホールの中で自習。